新種の生き物の名付けについて
生き物は、この世に生まれたからにはいつか、その命に終わりがくるものです。これは唯一、生き物に与えられている平等だということができるでしょう。そして、そんな運命に抵抗したいからでしょうか。人間はときに、自分の名前を後世に残したいと考えるものです。
例えばそれは、政治や経済の分野で大きな功績を残すことかもしれません。あるいは映画や音楽など芸能の世界で活躍することかもしれません。もしくは、絵画や写真のように、芸術の世界に名をはせることでも叶えられるでしょう。もちろん人間全員がそういう願望を持っているというわけではありませんが、「名を残したい」という考えを持つ人が一定数いることもまた、事実でしょう。
そんな中でもロマンにあふれる名前の残し方は、生物や天体、細菌や物質などの新種を発見して、それに自分にちなんだ名前を付けるというものです。これは、普段は自分の名前を後世に残したいだなんて考えを持っていない人であったとしても、聞いただけで心躍るような制度ですよね。
しかしときに人は、自分の名前よりも、自分が尊敬する人物、お世話になった人物の名前を残したいと考えるものです。それが、「献名」というものです。これは生物の命名をするときに、特定の人物の名前をその名前に織り込んで名付けることを言います。自分の名前よりもさらに大切にしたい名前があるだなんて、素敵な話ですよね。
しかしこの素敵な慣例は、いったいどのようにして始まったものなのでしょうか。ことの始まりは、19世紀だといわれています。想像していたよりも、意外と最近だと思われたのではないでしょうか。その19世紀に献名が始まった背景としては、当時の分類学的研究には多大な経済的援助が必要であったことにあります。新種を発見できた研究者は、その援助に感謝を込め、新種を名付ける際に援助者の名前をそこに織り込んだということなのです。それが慣例となって、今では尊敬している人物や個人的に感謝している人物の名前を、新種に献名するということになっているのですね。
近年の誰でも知っている名前でいうと、アメリカの44代大統領であるバラク・オバマ氏への献名として、新種の吸虫にBaracktrema obamaiがあります。他にも、ジョン・レノンへの献名としてオオツチグモ科の新種Bumba lennoni、オジー・オズボーンにちなんだアマガエル科のDendropsophus ozzyiの学名あり、当時は音楽ファンの間で話題になりました。
このような制度をみていると、やはり名前を付けるという行為は、我々人間にとって特別な意味を持っているということがよく実感できるのではないでしょうか。その人の名前が付いたからといって、100億円が銀行口座に振り込まれるわけではありません。しかし今後、研究者たちの間で永遠にその名を呼ばれ続けるというのは、すこし気恥ずかしく、でもそれ以上に嬉しいものかもしれません。